東京高等裁判所 昭和29年(う)184号 判決
被告人 上村武正
〔抄 録〕
控訴趣意第二点について。
原判決の引用する原審証人向坪ともの尋問調書、原審証人新井勲の原審公判廷における供述中にはそれぞれ論旨摘録の通りの供述の存することの認められることは所論の通りである。しかし原審証人向坪ともの尋問調書原審証人新井勲の原審公判廷における供述を精査すると、向坪ともは近隣の被告人方作業所内に精米機が据付けられているので原判示(一)の日時頃自家生産の粳玄米一俵を精白するため被告人方の精米機を借用しようと考えて、粳玄米一俵をリャカーに載せて被告人方に到り、被告人に依頼して精米機を操作してもらい、自ら精米機の取入口に粳玄米を差入れ、精米機から出てくる精白米は自ら叺に移し入れ、精米機の運転中、時々は作業所外に出て被告人方庭先にいたことがあつても精米の進行状況については留意していたものであり、さればこそ、精米の完了する前に精白された米が意外に滅少しているのに不審を抱き被告人の火消壺に移した精白米を発見するに至つたものであることを認めることができるのである。
右のような場合においては向坪ともは自己の粳玄米の占有を被告人に移転したものとは認められず、精白された米についても自己の占有を失なわないものと認めるべきものであるから、被告人が不法領得の意思を以て精米機から出た精白米を火消壺内に移し入れ自己の占有に移した所為は所論のように横領罪に該当するものではなく窃盗罪に触れるものといわねばならない。しからば被告人の右所為を窃盗罪に問擬している原判決は相当であり、原判決には所論のような事実誤認に基く法令違背はないから、論旨は理由がない。